発達障害の根っこには愛着の問題が隠されていた
●愛着障害とはどのような障害なのでしょうか?
愛着障害の概念は、イギリスの精神科医:ジョン・ボウルビィによって提唱されました。人間は乳児期から幼少期にかけて養育者(特に母親)と安定した情緒的な結びつきを必要とします。これをアタッチメントと呼びます。このアタッチメントが安定して形成されることで自己肯定感や人に対する信頼感、安心感などが育ち健全な情緒が育まれていきます。このアタッチメントが健全に形成されずに育つと、対人不信が生じたり、自己肯定感が育たなかったりして人間関係を適切に結ぶことが難しくなり、生きる上での障壁となります。この障壁を、愛着障害もしくは愛着の問題と呼びます。
●さらに愛着の問題について。
愛着の問題を抱えている方は、幼少期に親から人格を否定されたり、関心を持たれなかったりの心理的虐待や、あるいは身体的な虐待を受けたケースが見られます。また、記憶にない頃の体験も影響していると言われ、まだ生まれる前の母親の胎内にいる時や、赤ちゃんの頃に母親が父親からDVを受けていたり、夫婦仲が険悪だったりすると、その母親のストレスも受けてしまいます。乳幼児は、無力の状態で本来なら最も安心・安全の場であるはずの家庭が緊張を強いられる危険な場となっているのです。また、虐待などを受けていなくとも母親不在などで、スキンシップを含めて母親との接触時間が少ない場合でも、愛着の問題は生じます。
●なぜ、愛着の問題と発達の問題が関係あるのでしょうか?
愛着障害には大きく分けて二つの傾向が存在します。一つは「反応性アタッチメント障害」というもので、他者への警戒心が強く親密な人間関係を築くのが難しい状態を指します。もう一つは「脱抑制型対人交流障害」というもので、他者に対して過度になれなれしく適切な距離を保つことが難しい状態です。発達障害の方の中には、他者の気持ちを想像することの難しさや、思ったことをそのまま言葉にするなどの特性をお持ちの方、自分の欲求への衝動を抑えることが難しい方もいて、これらの特性が上記に挙げた愛着障害の特性とも重なって映る場合があります。
また、愛着の問題が形成される要因ともなるストレスによって、脳の気質に影響を与えることも大いに考えられます。このように、愛着の問題と発達の問題とは重なる部分が多数存在するのです。
●発達障害に向けた対処法だけでは愛着の問題は解決できない。
ASD、ADHDなどの発達障害特性に有効なアプローチとしては、社会生活に対する考え方や行動を具体的に提供していく認知行動療法(CBT)や、集中力の向上やストレスに対する対処法などを身につけていくマインドフルネス療法などがあります。しかし、これらは直接愛着障害で傷ついた感情やトラウマに対しては効力が弱い部分もあります。愛着の問題に関しては痛みが伴っても辛かった過去と向き合う必要があります。その上で時間をかけて丁寧に傷ついた心を癒し、人に対する信頼感や自己肯定感、そして安心感を育てていく必要があります。愛着の問題を伴っている方はこの部分を無視しては、いくら発達障害向けのアプローチを施してもなかなか生きづらさの改善は難しいものがあるのです。
●愛着に問題がないかを慎重に見ていく必要がある
発達障害の特性に対する支援を受けるにしても、心理職、医療職を含め支援者は愛着に問題がないかを慎重に見ていく必要があります。生きづらさの本質には何が隠されているかを丁寧に見ていく事が大切です。いきなり過去に触れてしまうと、トラウマが強い場合などはパニックや不安定な状態に陥ってしまう事もあるからです。その上で、愛着形成に問題があるとの見立てに至った場合は、当事者の合意の上に愛着の問題をベースに置いた発達障害の特性に対する心理療法に取り組んでいく必要があります。
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