アダルトチルドレンの方へ。自分を知ることで人間関係の苦しみが軽くなっていくー人格適応論。

人格適応論

●人格適応論とは

 

 人格適応論は、ヴァン・ジョインズ(米国)により1994年に、「異なった人格適応タイプへの再決断療法」という論文で紹介された。人が幼少期に生き残るために、親からの期待に応えるために、そのための生き方を決断した「人生脚本」の考え方をベースに6つの人格適応タイプが存在し得るとの考え方である。6つのタイプにはそれぞれ特徴が見受けられる。

 その後、精神科医ポール・ウェアとテイビー・ケーラーによって6つの人格適応タイプが理論付けられた。そもそも、この人格適応論はより効果的なカウンセリングを行うために開発されたものだが、ここではカウンセリングにどのようにこの人格適応論を活かすかの視点ではなく、自らが自分の性格的特徴を知ることにより、いろいろな囚われからの解放を促したり、相手の特徴を知ったりすることで対人コミュニケーションを円滑にするための役に立てればとの視点に立って解説をしたいと思う。

 

●人格適応論を学ぶにあたっての注意点

 

 人格適応論は、パーソナリティ障害における人格タイプをベースとしていて、マイナス点に視点が行きがちになることを注意したい。パーソナリティ障害は、人格におけるマイナスポイントを抽出したものである。人格適応論においてはそれぞれのタイプには長所と短所があり、そのタイプを否定するのではなくどのタイプも「OKである」との視点を持つことが重要だ。適応タイプは、幼少期における厳しい環境を生き延びるために決断した戦略であると考えても良いだろう。

 

●人格適応論における6つのタイプとは

 

 精神科医であるポール・ウェアは6つのタイプを以下のように名付けた。

・スキゾイド型

・反社会型

・パラノイド型

・受動攻撃型

・強迫観念型

・演技型

 しかし、これらの名称はパーソナリティ障害を連想させるものであり、マイナスのイメージが強い。ヴァン・ジョインズはこれらを柔らかい表現に置き換えたが、まだマイナスのイメージが残る名称であった。さらに倉成はマイナスともプラスとも捉えられることのない独自の名称を臨床の場で用いた(交流分析にもとづくカウンセリング:倉成宜佳著)。それが以下であり本記事においてはこれらの名称を用いたいと思う

・想像型

・行動型

・信念型

・反応型

・思考型

・感情型

 

●それぞれのタイプの問題点と解決法

 

 ここでは、それぞれのタイプについて長所や短所など細かく説明するのではなく、主に問題点とその解決案を述べたいと思う。なぜならば、人間関係で問題を起こす要素はマイナス面に存在するからである。

 

・想像型

幼少期に、親に求めてもそれを否定されたり拒否されたりの経験が続き、要求すること自体をあきらめる決断をせざるを得なかった。しかし、その裏には要求をしなければ、いつか親は自分の望みをかなえてくれるのではないかとの期待が隠れている。そのために、感情を殺し、自分とも距離をとり他者と親密な関係になることを恐れ、心理的に孤立する傾向がある。

その内面には不安と寂しさが垣間見える。解決していくには、空想など自分の世界に引きこもらず、他者と触れ合い自分の欲求を表してもよいのだということを学んでいくことが鍵となる。自尊感情が高められ、他者との心の壁も取り除かれていくであろう。

 

・行動型

幼少期に、親から「そんな弱い子はうちの子ではない」など見捨てられる不安を経験すると、「強くなければ見捨てられてしまう、強くなければ!」との決断をせざるを得なかった場合、人生を勝ち負けでしか見られなくなってしまう。他者に対して優位に立ち他者をコントロールすることを無意識のうちに行う。人間関係は常に緊張と攻撃心を伴うことになる。その裏には見捨てられるのではないかとの不安が隠れている。解決に必要なことは、自分を愛してくれている人の存在を認めることである。そして、傷ついて弱っている自分、悲しんでいる自分も認めてあげる事ことである。その上で他者に対して優位に立つ必要のないことや、対等の協力関係を築くことを学ぶことが鍵となる。

 

・信念型

親の精神状態が安定せずに豹変するなどすると、子どもは安心感や安全感を育むことは出来ない。常に悪いことが起きるのではないかと過剰な自己防衛を強いられることになる。人が信じられずに猜疑心をベースに人と接することになるので人間関係は長続きしない。人間関係が壊れるとやはり想像したとおりになったとさらに猜疑心を強化していくことになる。その信念は固くとても強い。解決に必要なことは、たとえ怖くても人を信頼する努力をすること。自ら人間関係を切ろうとしないこと。そして世の中は、自分が思ったより疑い深くならずとも、バリアーを張らずとも生きていけることを学ぶことが鍵となる。

 

・反応型

支配的な親の元で生育すると、自律性を育むために親との戦いを強いられることになる。成長してからもその戦いは内面において続いている。それが親以外の人間関係にも投影される。他者から否定めいた発言や態度を受けると自己を守るために過剰に反応して対決しようとする。自分の思った通りにならないと苦しみにさらされることになる。そのために相手を支配しようとして戦う。解決のためには、闘う必要がないことを知ること、権力闘争の葛藤を手放す努力が必要である。自分の要求を伝えながらも、闘わずに他者と折り合いをつけながら協力関係を築くことを学ぶことが鍵となる。

 

・思考型

やはり支配的であったり、教育が過熱的だったりした親の元で生育すると親の要求を達成することで生き延びることを学んでしまう。それを他者との関係にも投影してしまい、他者の要求を満たすこと、完全に行う事に執着する。そうしないと生き延びられないからである。もちろん現実的にはそのようなことで生命を脅かされるようなことはない。しかし、本人にとっては無意識の領域でそれは現実なのである。やがては疲弊してしまい怒りが他者へ、そして自分へと向けられる。人間関係は破綻し、さらにその思考は強化される。解決のためには、他者の要求を満たさずとも生きていけること。要求を満たさずとも自分には価値がある事を学ぶことが鍵となる。怖くても完璧にやろうとせずに、ほどほどにやることを行動に移すことで改善されていくであろう。

 

・感情型

威圧的な親に対して、媚びたりご機嫌を取ったりすることで幼少期を生き延びてきた場合は、成長してからも相手を喜ばすことで安心・安全を求めようとする。反面、過保護でかわいいかわいいと育てられた場合にも、かわいい自分であらねばならないとおどけたりして相手の笑顔を求めようとする場合もある。いずれにしても怖い表情をしている人に対峙すると笑顔を求めて安心を得ようとするので、自分を卑下したり自虐的な言動で笑いを得ようとしたりする。そしてそれが得られないと不安になり、またそのような自分に対して嫌悪してしまうのである。ただでさえ育っていない自己肯定感を自ら傷つけ、みじめになってしまうのである。笑顔を向けられている時だけは満たされているが、ずっと笑顔を向けられていることなどありえず、ちょっとでも冷めた表情をされただけで、いきなり突き放されたような苦しみにとらわれる。このタイプは、思考に対して感情面がとても強い。解決のためには、まずは辛くとも自分の恐れや不安の感情が現実的なものなのかをしっかりと考える努力をすることである。他者から笑顔や関心が得られなくても、自分は生きていける、そして価値のある存在だということに気づいていくことが解決の鍵となる。

 

●これらのことを踏まえて

 

 上記に挙げたことは、ことさらマイナス面を強調しているように感じる方もいるかもしれないが、幼少期や乳児期に自分で生きるために決断したことは人が考えるよりもはるかに人間の生存本能レベルに刻まれるほど強いものである。これらから生じる生きづらさを個人の力だけで解決していくことは難しいと言わざるを得ない。頭では理解していてもなかなか生きづらさが改善しないという方はやはりカウンセラーなど専門職の支援を求めることが解決のためには有効であることを提言したい。

 

最後に繰り返しになるが、それぞれのタイプにはもちろん長所もあるということだ。それなのでこのタイプを欠点別タイプとは捉えないでいただきたい。どのタイプの特徴も生き延びるために獲得してきた特徴であり、個性である。ただし、その個性の中でも人間関係において自ら傷つけ苦しみの原因となっている部分は改善していった方がよい。なぜなら人間の悩みの99%は人間関係の悩みから生じているものだからである。問題解決のために少しでもこの記事を参考にしていただけたなら幸いである。