まずは、自分の心の痛みを知るところから始まる。

●苦しい生き方を繰り返してはいませんか?
アダルトチルドレン(以下ACと称す)の方は、人間関係において同じ苦しみを繰り返す傾向が見られます。恋愛関係においても長続きせずに出会いと別れを繰り返したり、親友だと思っていた人とも結局は関係が壊れたりと。中には結婚と離婚を繰り返す人もいます。職場においてもいつも人間関係でぶつかって転職を繰り返す人もいます。
その要因をカウンセリングで振り返ってみると、一つのパターンが見えてきます。カウンセリングを受けるまでもなく、自分で気づいている方もいるのではないでしょうか。しかし、頭では分かっていてもそのスパイラルから抜け出せないという方がほとんどなのです。
そして、自分を責めたり、相手を責めたり、中には社会そのものを恨むようになっていくことも。やがては、そのどうしようもない苦しみや絶望感から身を守るために、依存症へと進行していく方もいらっしゃいます。ACと依存症はセットと言っても過言ではないかもしれません。(依存対象はアルコール・薬物・ギャンブル・買い物・食べ物・人・環境など人によって様々です)
ACの方の苦しみは、人との関りで生じる苦しみです。人間関係は生きる上で切っても切り離せないものなので、生き方そのものの苦しみと言っても過言ではないのです。
●なぜ?、心の痛みを知ることが必要なのでしょう?
ACの方は子供の頃に親との関係で心が傷ついています。兄弟姉妹や従妹などと比べられたり、親の思いを押し付けられたり、好きなことややりたいことを否定されたり、気持ちに寄り添ってもらえなかったり、関心をもってもらえなかったりと、これらの体験は情緒的な「見捨てられ体験」となります。子供は本能的に親の愛情を求めます。そうしなければ生きていけないからです。親が愛してくれていないと感じると、それを求めて親に迎合するように自分を調整します。それでも愛してくれていないと感じると自分が悪いからと自分を責めるようになるのです。親が過保護であったり過干渉でも同様です。その場合、子供は生きるために必要な力を奪われていきます。このようなタイプの親は一見子供のことを大切にしているようで、実は子供が自分の思い通りにならないと我慢ならないのです。それで親がヒステリックになったりすると、子供は混乱して恐怖を感じます。これらの体験は全て強い痛みを伴う傷つき体験となるのです。
●ACの方は傷ついた心を値引きする傾向があります。
値引きとはどのようなことでしょう?例えば、親から傷つくようなことをされても、「どこの親も同じようなものだろう、このくらいで傷つくのは自分が弱いから」のように受け取って、自分の傷を軽く見る傾向があります。本能的に親を悪く思いたくない、との気持ちも生じるかもしれません。親を悪く思う事に罪悪感を抱くのです、
また、家庭内のことを他人に言うのは恥のように思えて言いづらいものですが、頑張って辛さを訴えても、「どこの家も同じようなもの」の一言で片づけられたり、「親のせいにしている」と逆に責められたりして、益々自責の念が増すことさえあります。苦しい生き方を繰り返しているのに、自分はそれほど過酷な体験をしてこなかったと思っている人の中には、傷つき体験に対して値引きをしている可能性も考えられます。
●どのようにして心の傷や痛みを探していくのでしょう?
それでは、自分の心の傷や痛みをどのようにして探していくのでしょうか?必要なのは痛みを感じることです。ところがACの方は、「値引き」で説明したように、背負った傷に対して軽く見ようとする傾向があります。また、感情を閉ざすことで過酷な環境から自分を守る術を覚えたので、痛みそのものを感じづらい方もいらっしゃるのです。
では、痛みに気づくためのはどうすれば良いのでしょう?そのためには受けた傷に気づく必要があります。カウンセリングでは語りを中心とした来談者中心療法を柱に、交流分析やスキーマ療法、フォーカシング療法などで、子供の頃の自分と丁寧に向き合って、その時の思いや気持ちに触れていきます。忘れてしまっていた感情を自分の奥深くに尋ねていきます。なぜこのような取り組みが必要かと言うと、自分では忘れたと思っていた痛みが実はトラウマとなって、自分の深いところでうずいていることがあるからです。インナーチャイルドと表現した方がわかりやすいでしょうか。子供の頃の傷や痛みを抱えたままの自分が、自分の奥深くで泣いているのです。
●痛みを知ることで見えてくるものがあります。
人間は痛みを感じることで、傷を治そうとします。痛みで自分が傷を負ったことに気づき、どのような傷かを知ることで処置の仕方も違ってきます。今、述べたことは身体の傷に関してですが、心の傷に関してはいかがでしょう?心の傷への癒しは身体の傷と違って大変難しいものがあります。傷の深さによってはPTSD(トラウマ)となり、一生にわたってその傷に支配されることもあります。しかし、傷を治すことは難しくても、それ以上傷を負わなくていいように、人間は本能的に防衛行動を取るようになります。どのような行動を取るかは、どのような傷かに加えてその人の生まれもった性格や親の影響が大きく反映されます。
多くのACの方に共通している心の傷として、「見捨てられ体験」があります。これは、物理的な体験だけではなく、自分の気持ちを否定された、あるいは拒否された、理解しようとしてもらえなかった、などの体験も子供にとっては情緒的な見捨てられ体験となるのです。親が過保護な場合なども、親の気分でヒステリックに怒られたりすると、親への依存心が強い分、強い恐怖の伴う見捨てられ体験となります。この見捨てられ体験の傷を受けないために子供は無意識に親のご機嫌を取ろうとしたり、あるいは悲しみの感情を感じないように抑圧したり、要求することをあきらめたりすることを学んでいくのです。ACの方が反抗期がないように映るのはこのためです。反抗期は健康的な成長過程の一つなのです。それは反抗して親と喧嘩したとしても、親は自分のことを見捨てないと感じているから出来ることなのです。
このようにして、子供の頃に受けた傷を知っていくと見えてくるものがあります。例えば、対人不信、対人恐怖、対人嫌悪、自己否定、自己嫌悪感、虚無感などです。これらの思いや感情が、その後の人生を支配していくことになるのです。
●子供の頃に受けた心の傷の影響は、成長してからの方が大きくなります。
ACの方は、子供の頃、過酷な環境の中を生き延びるのに大変な思いをして過ごしてきました。しかし、その傷の影響は成長してからの方が大きく現れてくるのです。成長するにしたがって、家族以外の人間との関りが増えてきます。恋愛もその一つです。しかし、ACの方のように子供の頃の心の傷が癒えてないままに恋愛をすると、いつ見捨てられるのではないか、きっとそのうちに見捨てられる、との思いや感情の痛みが襲ってきて苦しくなることがとても多いのです。その痛みから逃げるために、自分の方から関係を壊すような行動に出ることがあります。また、何度も相手の気持ちを確かめられずにいられなくて、相手の方が疲弊してしまうケースも大変多く見られます。そして、別れに至ったとしても、子供の時に満たされなかった心の空洞を埋めるために、その寂しさからまた恋愛相手を求めては同じことを繰り返すというパターンが続くのです。
また、痛みの感情を回避するために怒りの感情を使う方もいらっしゃいます。激怒することで自分の痛みを感じないようにするのです。物事を強迫的に完璧に行おうとする方もいます。その陰には人から責められることへの恐怖が隠れていることが多いのです。親密になることを恐れて、自分の気持ちを意識的にトーンダウンしようする方もいらっしゃいます。アルコールや薬で痛みを回避しようとするケースもあります。中には自殺未遂を繰り返す方もいるほどです。
●痛みから生じる負のスパイラルから抜け出すために。
ここまでお読みいただくと、痛みを回避するための行動が人間関係のつまづきとなり、生きることへの苦しみとなっていることをご理解いただけたのではないでしょうか。頭では分かっていたとしても同じことを繰りかえしてしまうのは、それほどその傷の痛みが激しいということなのです。頭で分かっていても変えられないのであれば、このスパイラルから抜け出すのは無理と言うことなのか、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、あきらめる必要はありません。一人では解決できなくても、カウンセリングでACとしての心の傷に丁寧に向き合っていくことで解決の道は必ず見えてきます。必要なのは良くなりたいと願う気持ちだけなのです。
それでは、カウンセリングではどのようにその痛みに向き合っていくのでしょう。やはり大切なことは、自分が今まで育ってきた中での苦しみを語っていただくことです。話していく中で、忘れていたと思っていたことがどんどん思い出されてきます。話していて涙を流されることもあるでしょう。涙は心を浄化(カタルシス)してくれます。それだけではなく、現在抱えている人間関係の問題も丁寧に見ていきます(カウンセリングでは見るという表現を使います)。そして、繰り返さないための新しい考え方や行動もカウンセラーと一緒に考えていきます。それを実際に行動に反映させるのはとてもの勇気のいることですが、出来そうなところからアプローチしていきます(スモールステップ)。できなかったとしても自分を責めないようにします。すでにカウンセリングを受けていること自体、変わるための努力とその行動をされているのですから。
痛みに対しても、これまでのように回避するのではなく、その痛みをしっかりと感じてあげることが癒しへとつながります。痛みを感じながらでも行動を変えていくための心理療法もあります。その人に適したと思われる心理療法を適宜組み合わせながらカウンセリングを根気よくお受けいただくことで、多くの方から生き方が楽になってきた、今まで気になっていたことが気にならなくなってきた、行動が変わってきた、とのお声をいただいています。
同じ苦しみ、生き方を繰り返してしまう、生き方を変えたい、との思いがある方、またはカウンセリングにご関心がある方などいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にウェッピーカウンセリングルーム日野・東京宛にお問合わせいただけたらと存じます。あなたが少しでも、自分らしく気持ちの良い人生を送るための一助になれましたら幸いです。