失ったものへの気づきから、回復は始まる。

●アダルトチルドレンとはどのような障害なのか?
アダルトチルドレン(以下ACと称す)と言う名称自体は特定の障害名や疾病名ではなく、あくまで「概念」としてのものです。では、どのような概念かというと、シンプルに表現すると次のようになります。「子供の頃に受けた心の傷が癒えぬままに成長した人たち」です。
一見すると、大人として社会に適応しているように見えても、実は心の中では傷ついて怯えた子供がいたり、自分を守ろうと必死になっている子供が存在している場合があります。その子供たち(インナーチャイルド)の痛みや叫びを外に出さないように、悟られないように必死に頑張っているのです。
知らぬ間に常に緊張して身体がこわばっている方もとても多く見られます。子供の時に親に何らかの問題があって、健康的な子供時代を生きてこられなかった人たち、それこそまさにACの方たちなのです。
●ACの方は子供時代に失ったものがあることに気づかない。
ACの方たちは心の中に慢性的な喪失感を抱えています。それは「心の空洞」と言ってもよいかもしれません。しかし、自分が何を失ったのかがわからない、そして失ったことにすら気づいていないケースが多いのです。そこにあるのは、漠然とした虚無感、満たされていない感覚や不安感なのです。それらを埋めようとして人に依存したり、アルコールや薬物などに依存したりするケースも見られるのです。
●ACの方は、何をどのようにして失ったのか?そしてその影響はどのようにして現れるのか?
それでは、ACの方は子供時代に一体何を失ったのでしょうか?例えば、親が威圧的で子供の好きな事を否定して支配するようなタイプだとします。そして、無力な子供が親から否定されるという事は、情緒的な「見捨てられ体験」となるのです。そのような体験をくり返し受けているうちに、子供は自分はここにいていいという自尊感情、安心感、信頼感を喪失していきます。また、親が過保護・過干渉であったらどうなるでしょう?このようなケースの場合もまた、子供が本来獲得するであろう自分で物事を決めていく力、自尊感情(自信)などを喪失することが考えられます。これもまた、親の支配なのです。
なぜ喪失と言う言葉を使うのか?疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、子供は本来、無条件で守られているという安心・信頼の感情を持つことで自分を大切に想う気持ちを育んでいきます。その気持ちを持つことが出来なかったのですから、喪失という表現を使ってもおかしくはありません。また、そのような健康的な感情そのものが人は生まれながらにして持っているという考え方もあります。それを養育者の不健康な接し方で奪われてしまったという考え方も出来るのです。
人生の中で誰もが様々な試練に出会う事でしょう。そのような時に心の支えになるのが、ここに挙げた自尊心や安心・信頼の感情なのです。それらの健康的な感情を喪失したり、あるいは傷ついたりすると、ストレスに対する耐性が小さく、乗り越え方がわからずに自分を責めたり、あるいは人や社会を恨んだりと心が病んでいく可能性がとても大きくなります。
●失ったものを取り戻し、ACから回復していくためには?
ACからの回復のためには、子供の時に失ったものを一つ一つ取り戻していくことが求められます。そして、取り戻すためには過去と触れ合うための心理アプローチが必要になります。これは痛みや悲しみを伴う取り組みでもあります。子供の時の親や兄弟姉妹・家族との関係はどうだったのか?出来事なども丁寧に見返していきます。その中で忘れていたことも思い出されて、忘れていた感情が揺れ戻ることがあります。これは自然なことで、その感情に蓋をしないでしっかりと感じてあげることが感情の浄化(カタルシス)へとつながっていくのです。
その心理アプローチを通して、子供の時に親から受けたスキーマ(信念)も探し求めていきます。親から言葉で否定されると、情緒的な「見捨てられ体験」となって、それが続くことで「私はここにいてはいけない存在」などのスキーマが心と身体にしみ込んでいきます(スキーマは心だけでなく身体(神経)にも組み込まれていくのです)。そして、親から受けたスキーマから喪失したものが何かをひも解いていきます。「ここにいてはいけない存在」スキーマからは、自分を愛する自尊感情や人とのつながり、安心感や信頼感を失い、孤独感や疎外感に包まれることでしょう。それを認めることは悲しみや怒りを伴う作業かもしれません。(カウンセラーはクライエントの方の感情に寄り添いながら、その取り組みをお支えいたします)
そして、失ったものに気づいたら、それを獲得してくための作業に取り組んでいきます。自尊心や安心・信頼を新たに獲得していく段階です。より健康的なスキーマを身につけていく段階と言っても良いでしょう。
※ACからの回復のための主な心理療法:来談者中心療法・弁証法的行動療法(認知行動療法)・交流分析・スキーマ療法・再決断療法・フォーカシング療法、など。
●カウンセリングは、画一的なものではなく、その人のペースや個性に併せて臨機応変に取り組んで参ります。
ここまでにご説明したACからの回復のための心理アプローチは、この段階をクリアしたら次、というように画一的なものではなく、流れに添って臨機応変に適宜組み合わせて行っていきます。そして、ゆらぎと言って行きつ戻りつをくり返しながら、段々と回復の階段を上っていくのです。その過程を根気よくあきらめずに丁寧に取り組んでいった結果、楽になっている事にふと気づくという方が大変多くいらっしゃいます。
ACの方の心の傷は、子供の時に受けたものだけでなく、その後の人生においてさらに苦しみとなって傷が深く大きくなっていく傾向があります。それだけの年月をかけて出来上がった障壁からの回復にはそれだけの時間も要します。しかし、あきらめて何もしないでいるとその傷はさらに大きくなって、依存症など生命そのものへの危機を招く状態にもなりかねません(これは決して大げさな事ではないのです)。
このブログをご覧いただき、「自分もACでは?この苦しみや生きづらさを今からでもどうにかしたい」と感じていただけた方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にウェッピーカウンセリングルーム日野・東京までお問合わせいただけたらと思います。
あなたが失ったものを取り戻し、生き生きと自分らしく自信を持って生きるための一助になることが出来ましたら幸いです。